EU AI Act(EU人工知能法) — 日本企業への影響と対応ガイド
区分:2024年8月1日 発効 → 段階施行(2025年2月・2025年8月・2026年8月〜)
30秒でわかる:この規制のポイント
| 区分 | 2024年8月1日 発効 → 段階施行(2025年2月・2025年8月・2026年8月〜) |
|---|---|
| 誰が対象 | EU域内でAIシステム・汎用AIモデルを上市・提供・使用する事業者/自社のAI出力がEU域内で使用される可能性のある日本企業(AIサービス事業者、SaaS提供者、輸出メーカー、グローバル人事・採用ツール運用企業など) |
| 守ること | EU市場にAI製品・サービスを上市する場合、または出力がEU内で使用される場合は域外適用される(Art. 2)。EUユーザー向けクラウドAIや、EU顧客が使う採用AIなどは対象に入り得る / 展開者(deployer)にも透明性・人の監督・ログ保持の義務が及ぶ場面がある。GPAIモデルの提供者には2025年8月2日から技術文書・著作権ポリシー・学習データ要約公表などの義務が適用済 ほか1項目 |
| 罰則 | 禁止AI(Art. 5)の違反は最大3,500万ユーロまたは前年度全世界売上高の7%のいずれか高い額。 |
| 今やること | EU市場へのAI製品・サービス提供の有無を棚卸し(直接販売・EU子会社経由・EUユーザーのSaaS利用・EU向けAPI提供を含む)(ほか5件は下のチェックリスト参照) |
かんたん要約
- ●EU AI Act(Regulation (EU) 2024/1689)は2024年8月1日に発効した世界初の包括的なAI規則です。EU域内でAIシステム/汎用AIモデルを上市・提供・使用する事業者を規制し、EU域外の事業者にも「出力がEUで使用される場合」などに域外適用されます。
- ●段階施行で、2025年2月2日に「禁止AI(社会的スコアリング等)」、2025年8月2日に「汎用AIモデル(GPAI)の透明性・著作権義務」、2026年8月2日以降に新規GPAIへの執行・市場サーベイランスが順次適用されます。高リスクAIシステムへの適用は当初2026年8月予定でしたが、延期を盛り込んだ「デジタル・オムニバス」が2026年6月に欧州議会・EU理事会で採択され、Annex III単体システムは2027年12月2日、Annex I規制製品組込みは2028年8月2日へ後ろ倒しされました。
- ●リスク区分(禁止/高リスク/限定リスク/最小リスク)と提供者・展開者・輸入者・販売者の役割で義務が変わります。EU向けにAI製品・サービスを提供する日本企業は、自社のAIがどの区分・どの役割に当たるか早期に判定し、技術文書・透明性・人の監督の体制を整える必要があります。
対象となる人・企業
EU域内でAIシステム・汎用AIモデルを上市・提供・使用する事業者/自社のAI出力がEU域内で使用される可能性のある日本企業(AIサービス事業者、SaaS提供者、輸出メーカー、グローバル人事・採用ツール運用企業など)
規制のポイント(やってはいけないこと → 守るべきこと)
やってはいけないこと
EUの規制は遠い話で、日本国内のAI開発・利用には関係ないと考える
守るべきこと
EU市場にAI製品・サービスを上市する場合、または出力がEU内で使用される場合は域外適用される(Art. 2)。EUユーザー向けクラウドAIや、EU顧客が使う採用AIなどは対象に入り得る
やってはいけないこと
社内向けの生成AI利用や、自社のAI機能はGPAIモデルだけ別扱いと考える
守るべきこと
展開者(deployer)にも透明性・人の監督・ログ保持の義務が及ぶ場面がある。GPAIモデルの提供者には2025年8月2日から技術文書・著作権ポリシー・学習データ要約公表などの義務が適用済
やってはいけないこと
罰則は形式的なものと考え対応を先送り
守るべきこと
禁止AIの違反は最大3,500万ユーロまたは前年度全世界売上高の7%のいずれか高い額。その他の義務違反は最大1,500万ユーロまたは3%。GDPRより重い水準の制裁が定められている(Art. 99)
※ EU AI Actの解釈は、欧州委員会が公表するガイドライン・実施法令(Implementing Acts)・整合規格(harmonized standards)で具体化されます。高リスクAI規定の適用延期は2026年6月採択のデジタル・オムニバスで正式化されましたが、関連ガイドライン・整合規格は整備途上です。最新情報は欧州委員会・JETROで確認してください。
くわしい解説と実務への影響
段階的なスケジュール
- 2024年8月1日 EU AI Act(Regulation (EU) 2024/1689)発効
- 2025年2月2日 禁止AI(社会的スコアリング・職場/学校での感情認識など Art. 5)と AIリテラシー(Art. 4)の規定が適用開始
- 2025年7月10日 欧州委員会が「汎用AIの行動規範(Code of Practice)」を公開(任意遵守手段)
- 2025年8月2日 汎用AIモデル(GPAI)提供者の透明性・著作権ポリシー・学習データ要約公表などの義務が適用開始。罰則規定(Art. 99)の適用も開始
- 2026年6月 高リスクAI義務の延期を盛り込んだ「デジタル・オムニバス」を欧州議会(6月16日)・EU理事会(6月29日)が採択
- 2026年8月2日 新規GPAIモデルに対する欧州委AIオフィスの執行・市場サーベイランスが開始(高リスクAI規定の同日適用はデジタル・オムニバスにより延期)
- 2027年8月2日 既存のGPAIモデル(2025年8月2日より前に上市)にもGPAI義務が完全適用
- 2027年12月2日 高リスクAI規定(Annex III の単体システム)の適用開始(延期後の新期日)
- 2028年8月2日 規制製品(Annex I)に組み込まれた高リスクAIへの適用開始(延期後の新期日)
EU AI Actの全体像と域外適用
EU AI Actは、AIシステムをリスクベースで規制する世界初の包括的なAI規則で、Regulation (EU) 2024/1689 として2024年8月1日に発効しました。適用範囲(Art. 2)は広く、(1) EU域内に拠点を置く事業者がAIシステム/GPAIモデルを上市・サービス提供・使用する場合、(2) EU域外の事業者が上市または提供する場合、(3) EU域外の事業者でも「AIシステムの出力がEU域内で使用される」場合を含みます。これがいわゆる域外適用条項で、日本のSaaS・APIサービスがEU域内で利用される場合も射程に入ります。
4つのリスク区分
AI Actは AIシステムをリスクに応じて4区分します。①禁止リスク(Art. 5)= 社会的スコアリング、職場・学校での感情認識、一定の生体認証など。違反は最も重い制裁(最大3,500万ユーロまたは売上高7%)。②高リスク(Annex III)= 採用・人事評価、教育・試験、与信、重要インフラ、法執行、移民管理など。技術文書・データガバナンス・人の監督・ロギング・CEマーキング等の義務。③限定リスク = チャットボット・ディープフェイクなど。利用者への透明性義務(AIだと知らせる等)。④最小リスク = 上記以外。義務は基本的になし。
段階施行の現状(2026年7月時点)
禁止AI規定とAIリテラシー条項は2025年2月2日に既に適用開始されており、GPAIモデル提供者の義務と罰則規定は2025年8月2日から適用中です。高リスクAI規定は当初2026年8月2日に適用される予定でしたが、欧州委員会が2025年11月19日に公表した「デジタル・オムニバス」による延期案が、2026年6月16日に欧州議会、6月29日にEU理事会で採択されました。これにより高リスクAI義務の適用は、Annex IIIの単体システムが2027年12月2日、Annex Iの規制製品(医療機器・機械など)に組み込まれたAIが2028年8月2日へ後ろ倒しされます。一方、新規GPAIモデルへの欧州委AIオフィスの執行・市場サーベイランスは予定どおり2026年8月2日から始まる見込みです。
汎用AIモデル(GPAI)提供者の義務
汎用AIモデル(GPAI = General-Purpose AI model)を提供する事業者には、2025年8月2日から(a) 技術文書の整備、(b) 学習データの著作権遵守ポリシー、(c) 学習データの要約の公表(欧州委テンプレートに準拠)、(d) 川下提供者(モデル組込製品の提供者)への情報提供などの義務が課されています。一定の閾値(10^25 FLOPs)を超える「システミックリスクのあるGPAI」にはさらに重い義務(敵対的評価・モデル評価・サイバーセキュリティ等)が課されます。欧州委員会は2025年7月に「汎用AIの行動規範(Code of Practice)」を公開し、これに署名・遵守することで義務適合の推定が働く設計になっています。
日本企業に求められる初動
優先的に行うべきは「自社AIがEU AI Actの射程に入るかの棚卸し」です。①EU市場への直接販売・代理店経由販売の有無、②EU子会社・関連会社でのAI使用、③日本拠点のSaaS/APIでEUからのユーザー利用、④グローバルに展開する採用・人事・与信SaaSのEU内利用、⑤EU向けに販売する製品に組み込んだAI機能、を順に洗い出します。射程に入る場合は、自社の役割(提供者・展開者・輸入者・販売者)とリスク区分を判定し、必要な義務を逆算します。GDPR対応をすでに行っている企業は、データガバナンス・記録保持・DPIAなどの仕組みを流用できる部分があります。
注意点と最新情報
AI Actは多くの実施法令(Implementing Acts)・整合規格(harmonized standards)・ガイドラインの整備で具体化されている途上で、日々アップデートされています。実務判断は本記事のような解説だけでなく、欧州委員会の公式発表・整合規格の進捗・JETRO等の最新情報を確認したうえで、必要に応じて現地弁護士・コンサルタントと連携してください。本記事は2026年7月時点の公開情報にもとづいています。
うちのAIは EU AI Act の対象?
自社AIシステムまたはその出力がEU域内で使用される可能性がありますか?
EU市場でAI製品・サービスを上市している
対象(提供者)。リスク区分を判定して義務に対応
EU内ユーザーが日本拠点のSaaS/APIを使う・EU向けにAI出力を提供している
対象(域外適用 Art. 2(1)(c))。出力がEUで使用される範囲で義務に対応
EU内の取引先・関連会社でAIを使用させている
展開者として透明性・人の監督等の義務が及ぶ場面あり
EUとの取引・利用が一切ない
原則として対象外。ただし将来のEU展開時に備えて区分把握は有用
対象判定は法的判断を含むため、本図は実務上の初期スクリーニングとしてご利用ください。
段階施行スケジュール
日本国内法とEU AI Actのスタンスの違い
日本(2026年6月時点)
- –AI事業者ガイドライン(経産省・総務省)等のソフトロー中心
- –個別法(個人情報保護法・著作権法)での対応
- –罰則を伴う包括的AI規制法は未制定
EU AI Act
- ✓包括的なハードロー(域外適用あり)
- ✓リスクベースで義務を区分し、罰則を明確化
- ✓禁止AI違反は最大売上高7%の制裁
リスク区分と主な義務(概要)
| 区分 | 具体例 | 主な義務/制裁 |
|---|---|---|
| 禁止リスク | 社会的スコアリング/職場・学校での感情認識/無差別な顔画像スクレイピング | 上市・使用の全面禁止。違反は最大3,500万ユーロまたは売上高7% |
| 高リスク | 採用AI/教育評価/与信判断/重要インフラ/法執行/移民管理 | 技術文書・データガバナンス・人の監督・ロギング・CEマーキング・EU適合宣言 |
| 限定リスク | チャットボット/生成AI・ディープフェイクのコンテンツ | 利用者への透明性義務(AIだと知らせる/生成コンテンツのラベル付け) |
| 最小リスク | スパムフィルタ/在庫予測など | 原則として AI Act 上の追加義務なし(自主行動規範を推奨) |
| 汎用AIモデル(GPAI) | GPT・Llama・Claude等のような汎用基盤モデル | 技術文書/著作権ポリシー/学習データ要約公表/川下情報提供。システミックリスク追加義務あり |
違反した場合のリスク
禁止AI(Art. 5)の違反は最大3,500万ユーロまたは前年度全世界売上高の7%のいずれか高い額。高リスクAI等のその他の義務違反は最大1,500万ユーロまたは3%。GPAI提供者の義務違反は最大1,500万ユーロまたは3%(Art. 99・101)。
経過措置・猶予
段階施行: 禁止AI=2025年2月2日/GPAIモデル提供者義務=2025年8月2日(既存モデルは2027年8月2日まで適合準備期間)/高リスクAI規定=Annex III単体システムは2027年12月2日・Annex I規制製品組込みは2028年8月2日(2026年6月採択のデジタル・オムニバスで延期)/新規GPAIへの欧州委AIオフィス執行=2026年8月2日以降。
対応チェックリスト
自社で行う対応の一例です。チェックを入れると進捗がこの端末に保存されます(サーバーには送信されません)。
※ 一般的な対応例です。個別の要否は専門家にご確認ください。
よくある質問
うちは日本国内のお客様向けにしかAIを使っていません。それでも対象?
罰則は本当に売上高の7%取られる?
高リスクAI規定はいつから守ればいい?
社内で ChatGPT などの生成AIを使うだけでも規制対象?
GPAI(汎用AIモデル)の「学習データ要約公表」は何を出せばいい?
対象になるのはどんな人・企業ですか?
どんな規制ですか?
注意しておくことはありますか?
法令の原文はどこで確認できますか?
関連する改正
一次情報・出典
- 欧州連合 Official Journal Regulation (EU) 2024/1689(AI Act 本文)
- 欧州委員会 AI Act 特設ページ
- JETRO 欧州委、AI法の高リスクシステムに関する適用延期を提案(2025年12月)
- JETRO 欧州委、AI法に基づく「汎用AIの行動規範」公開(2025年7月)
- JETRO EUのAI規則、禁止されるAI利用のルールが適用開始に(2025年2月)
- 総務省 EUにおけるAI規制と偽・誤情報対策
この情報の最終確認日:2026年7月24日